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コードバンにワックスをかけたい。
光沢感を更に付与するために使われるワックス。
重ねるごとに水に強く、色に深みが出てくるという魅力があります。
一般的には芯材部分以外にワックスをつける事は推奨されていませんが、適切にケアを施せばクラックとは無縁のままエイジングできるはず。
コードバン靴のさらなる経年変化を楽しむべく、ワックスの塗布を行ってみました。
"ワックスは悪"説の誤謬
「ワックスはクラックの元になる。」
うーむ...本当にそうでしょうか。
ワックスは主に油分とロウで構成され、これが革表面の凹凸を埋める事で光沢が生まれます。
鏡面磨きが良い例ですね。
先述の通り油分とロウ成分で構成されているため、ただただ光沢感が付与されるだけではなく水分にも強くなっていきます。
僅かに雨が当たった程度では染み込まなくなるくらいです。
しかし水分にも強くなってしまう以上、デリケートクリームのような革に柔らかさを付与するものが入りにくくなるという欠点が出てくるというのも事実です。
栄養分が入らないから革が固くなる...といった悪い意味での経年変化も相まり、クラックの元になってしまうというのが一般的に言われる「ワックスが推奨されていない理由」です。
ここでは書ききれないほどに様々な理由があるようですが、概要までに簡単な説明で止めておきます。
だからこそワックスはつま先や踵といったシワにならない芯材部分に使用するのが王道です。
しかし実際にはアッパーにもワックスを塗布しながら履き、10年ほどエイジングが進んだ靴でもクラックが生じていない物も多くあるのも事実です。
お時間ある方は、Alden Styleさんのチャッカブーツをぜひ覗いてみてください。
正しいエイジングの結果こんなにも美しくなるんですね。
新品の時にはない色味があります...!
閑話休題。
そもそもクラックが生じる理由はシワの蓄積によるものです。
過去に私が投稿した記事に、その発生機序のようなものを簡単に書きました。
歩行時の足関節・足部の動きはとても複雑で、効率良く動くために大きな関節運動が生じます。
この際に靴のアッパーには履きシワが入っていきます。適切なケアを行なっているレザーは栄養分でしっとりしており、シワが入っても弾力があるため跡が付く程度にとどまります。
また、革靴を脱いだ後にシューキーパー を入れることでシワが伸ばされます。しかしケアをされていない乾燥したレザーでは曲げ伸ばしストレスに耐えきれず、履きジワ部分を中心に裂けてしまいます。
これがクラックです。
つまりは、履いた後にシューキーパーを入れたりとシワを伸ばす工夫さえ怠らなかったらシワ蓄積型のクラックとは無縁になるわけです。
”ワックスは悪”説の誤謬。
ワックスはクラックの原因だと思っているなら、それは間違いなのかもしれません。
状態確認
ワックスがけしていくのはこちら。
Aldenのチャッカブーツです。
当ブログでは踵を直したり脱皮チャレンジをしたりとよく登場している個体です。
今回はつま先部分だけではなく、アッパー部分にも広く塗布していきます。
さっそく状態を確認していきましょう。
ここからどこまで綺麗になるでしょうか。
非常に楽しみです。
実際に塗布していく
まずは前準備。
シューキーパーをきつめに入れ、シワを伸ばします。
この際にシワ部分をアビースティックやかっさ棒で伸ばしておくとより効果的です。
用意するものはいたってシンプル。
ブラシ、ワックス、水。
あとはネル生地を用意します。
ワックスは水分を飛ばしたものと通常の2種類を用意しましたが、通常のみでも問題ありません。
さっそく塗布していきましょう!
まずは通常のワックスを指で薄くとり、全体に塗っていきます。
指で取る事でワックスが溶け、より深く浸潤していきます。
もちろんサイドも塗布。
全体的に薄く2往復程度ワックスを塗りました。
次に水分をつけて磨いていきます。
極めて僅かに水分を取り、滑らせるように伸ばしていきます。
ネル生地が滑りにくく感じた時に水分を少しずつ足して伸ばしていきます。
あらかた伸びたらOKです。
この工程をもう一度繰り返していきます。
再びワックスを重ねて...。
水分をつけたネル生地で磨く。
これくらいで良いでしょう!
美しくなってきました。
次にブラシに少しだけ水分を付けてブラッシングしていきます。
ネル生地で拭いた跡が綺麗になるので、光沢に統一感が出ます。
柔らかい馬毛ブラシが適切ですが、手元になかったので豚毛ブラシで行いました。
あまりゴリゴリ当てずに滑らせると美しく仕上がります。
次に、より光らせたい部分に固形ワックスを付けて鏡面磨きしていきます。
通常ワックスの時同様、指で取り薄く延ばしていきます。
私はつま先だけに塗布しました。
すでに水分が飛んだワックスなので、待つ時間もなくあっという間に鏡面にできます。
ネル生地で磨くとこんなかんじに。
これで完成です!
つま先だけではなくアッパーまで光沢感があります。
光るほどのコードバン靴を「チュルチュル」と表現するようですが、まさにそんな状態ではないでしょうか。
履いた後のケア
あくまでこのワックスがけは適切な経年変化(エイジング)の布石。
何度も重ねる事でより洗練されていく魅力があります。
というわけで1~2週間ほど履いてみました。
当然ですがシワが寄ります。
これはこれで美しいような気もしますが、せっかくなのでシワを伸ばしていきましょう。
履いた後のケアは、お時間の無い方でも簡単。
シューキーパーをきつめに入れ、シワに対してアビースティック(かっさ棒)を擦りつけていきます。
シワの強い部分は入念にやっていきましょう。
擦った後が残りますがすぐに消えるので問題ありません。
この時点でシワが軽減されているのが分かります。
あとは全体的にブラッシングをしてあげれば美しく戻ります。
簡単でしょう!
お時間のある方はさらにワックスを重ねていく事をおススメします。
先の要領で塗布して、水をつけたネルで磨く。
できた!更に美しくなりました。
脳内が快楽物質で埋め尽くされる瞬間です(笑)
いかがでしょう。
1度目のワックス塗布よりも黒色が深くなっているのがわかります。
こうしてケアを続けていく事で深い色味となっていくのですね。
前後の比較
ワックスなしの状態と2度目で比較してみました。
【ワックスなし】
【2度目のワックス後】
【ワックスなし】
【2度目のワックス後】
【ワックスなし】
【2度目のワックス後】
一目瞭然の違いではないでしょうか。
ワックス付けてるから当たり前か(笑)
油分・ロウ分の層が重なるゆえに水に強く、深い黒色になっていくんですね。
今後のエイジングに期待が持てます。
あとがき
今回はコードバン靴をワックスがけしてみました。
この記事通りのケアのまま1ヶ月以上履いておりますが、もともとあったクラック以外は発生することなく経過しています。
それどころかワックスを重ねるごとに深い色味になって美しくなっています。
ガラスレザーとはまた違った上品な光沢感が魅力的です。
この調子で何年もケアしていく事で、Alden Styleさんのチャッカブーツのような貫禄が生まれるのかもしれません。
【オールデンのお手入れ!】オールデン チャッカブーツ コードバン!10年エイジング!鏡面磨きしてみた! - Alden Style
ワックスの光沢感の好みはあるとは思いますが、気になった方はぜひ挑戦してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。