(この記事は約7分でお読みいただけます。)
カビの生えた革靴はどこまで綺麗になるのだろうか。
安価な靴であれば履き捨てる事も多いとはおもいますが、高価な靴ともなれば手入れをする方も多い事でしょう。
履いた後にはホコリを払ったり、不定期ながらもクリームを塗ったり、濡れてしまったら風通しの良いところで保管するなどなど、愛情のかけ方は違えど気に掛ける割合は多くなるはず。
そんな中でも、様々な理由から適切な手入れや管理をされなかったであろう個体が市場にはよく転がっています。
今回見つけたALDEN(オールデン)もそんなワケアリな個体です。
これはなんとも根深そうなカビが...!
半年ほど前ですが、某オークションで格安だったのでついついポチってしまいました。
そこまで履き込まれた形跡はありませんが、状態が状態だけに入札後も競合する事なく落札できました。
こちらはALDEN 962と呼ばれ、タンという橙色のカラーとノルウィージャンフロントというY字のような縫い目が特徴の個体です。
白い斑点は白カビの証。
靴自体に色ムラが出来ているわけではないので、雨に濡れて放置したという事ではなさそうです。
靴の内側にはホコリが体積していたので、湿気の多い倉庫か玄関にでも長期間放置されたでしょう。
今回はこんなカビてしまったALDEN 962の再起を図ります。
カビ落としのメソッド
カビと対峙してからというもの鼻水が止まりません。
早くカビを撃退していきましょう。
カビ落としは丸洗いによる方法と、クリーナーとメンテナンスで誤魔化す方法がありますが、今回は後者を選択します。
使用感の少ない個体なので丸洗いによってヨレが強くなってしまうのは避けたいところです。
あと面倒ですからね(本音)
さっそく手入れしていきましょう。
まずはブラッシングをしてホコリとカビを払います。
アッパーに僅かに輝きが戻ってきました。
根の浅いカビはこれで撃退できるはずなのですがまったく取れません。
相当に根が深いようです。
次はステインリムーバーで古いクリームと汚れを落としていきます。
今回使用するのはこちら。
自然工房の「カビ取り&クリーナー」です。
まさに今回の目的と合致した商品ではないでしょうか。
他社のリムーバーと比較して水分が多く粘性が低いのでより浸透します。
クロス(布)に適量付け、アッパーを拭いていきます。
白い斑点が消えてきた!
これだけでも目立ちにくくなってきたのではないでしょうか。
あまり推奨されないやり方ですが、根の深いカビの部分は強めに拭きました。
色が禿げかけている部分は靴クリームの補色でどうとでもなるでしょう。
潤いと補色
ここからは通常通りのメンテナンスを行います。
クリーム塗布の鉄則は、水分量の多いクリーム類からです。
デリケートクリーム(潤い)→靴クリーム(補色)→ワックス(光沢・保護)という流れが一般的ではないでしょうか。
アッパーはすっかり乾燥している状態なので潤いを与えていきましょう。
Mモゥブレィ「デリケートクリーム」です。
ブラシに米粒大ほど取り、アッパー全体になじませます。
少し時間を置いてから乾いたクロスで余分なクリームを拭き取ります。
アッパーに輝きと深みが戻ってきました。
次に靴クリームで小傷とカビの跡を隠していきましょう。
一般的にはアッパーの革の色から1トーン明るい靴クリームを選択するのが適切ですが、カビの跡を隠し切れない場合はもっともっと濃い色を入れていくつもりです。
とりあえずは一番手前のコロニル「ライトブラウン」を選択。
米粒大ほどのクリームをブラシでとり全体に馴染ませ、クロスで余分なクリームを拭き取ります。
磨くほどに光沢が出てきて楽しい瞬間です。
さて、どんなもんでしょうか。
うーむ...やはり斑点が気になります。
という事で”追い靴クリーム”しましょう。
Columbus「ブラウン」という明るめのブラウンカラーを足しました。
これは良いのでは...!
アッパーのタンカラーは濃い色味になり、カビ跡の斑点と色差がなくなりました。
近距離で凝視されたらバレる程度まで誤魔化す事が出来たのではないでしょうか。
つま先を鏡面に
最後にワックスでを鏡面仕上げにしていきます。
鏡面仕上げは名前の通りワックスで革の凹凸を埋め鏡のように光らせる手法です。
キズも汚れも簡単に隠せるほか、キズ付きやすいつま先の保護やある程度の防水効果も期待できます。
個人的にオススメのワックスは、塗膜の強い「トラディショナルワックス」と革に馴染みやすい「ビーズワックス」です。
今回は前者の「トラディショナルワックス ニュートラル(無色)」を使用していきます。
指でつま先部分に塗っていきましょう。
極めて薄いワックス層を何度も塗り重ねていく感覚で塗布すれば失敗しにくいかと思います。
何度かワックス層を重ねたらクロスで均一に伸ばしていきます。
オススメは船場和晒の「三都晒」というネル生地です。
Amazonのレビューを見ていても靴磨き用に使用されている方が多くいらっしゃいます。
厚手なのでズレずに磨きやすいんですよね。
クロス(ネル生地)に水分を少量つけながら磨いていきます。
コツは小さな円を描きながら磨いていく事です。
過去に鏡面磨きの記事も作成しましたので、参考にしていただきましたら幸いです。
できた!
良い光沢感ではないでしょうか。
もっとワックスを厚く塗れば景色が映り込むほどの鏡面にもできますが、これくらいにしておきましょう。
誤魔化せたのではなかろうか
最初の状態と比較してみましょう。
白カビの斑点は消え、全体的に深みと光沢感が増しました。
近距離で凝視されたらバレてしまいそうですが、遠目では違和感ありません。
着用してもこの通りです。
満足の仕上がりです。
それにしてもALDENは美しい。
愛してやみません...!
このALDEN 962は「アバディーンラスト」というオールデンの中でも細い木型を使っているので、もっともドレス顔と言われています。
日本人は足幅の大きな方が多いので好みは分かれそうですが、ぜひ見かけたら足を通していただきたい一足です。
健常な靴の中に忍ばせてみました。
まさか左から2番目の靴が1時間前までカビの温床だったとは到底思えないでしょう。
想像以上に綺麗にする事ができました。
破棄する前に試す価値はある
「雨に濡れたまま湿気のあるところで放置してたらカビちゃった。」なんて事は、革靴をお持ちの方なら一度は経験があるのではないでしょうか。
お気に入りの一足でしたら、破棄する前にクリーナーとメンテナンスで綺麗になるか試してみるのも良いのではないかと思います。
現にこのALDEN 962はまた使用できるほどに綺麗になりました。
手をかけるほどに綺麗になる靴磨きの醍醐味を改めて感じる事ができるケースでした。
カビ撃退してから鼻水も止まったし本当に良かった。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。