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ヨーグルトメーカーで鶏ハムを作りたい

(この記事は約9分でお読みいただけます。)

 

 

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ヨーグルトメーカーで鶏ハムを作りたい

 

 

我が家で大活躍のヨーグルトメーカー「IYM-012」

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購入以来、毎週R-1ヨーグルトと温泉卵を量産する機械と化しています。

www.satanokoe.com

www.satanokoe.com

 

ただ正直飽きてきたのが本音です(笑)
そろそろヨーグルトと温泉卵だけではなく、新たなレパートリーを増やしたい...!

思えばこの機械「ヨーグルトメーカー」とは名ばかりの物で、いわば温度維持機であるのが実態です。
この機能を使用すれば、最近流行りの低温調理機よろしく柔らかい鶏ハムが作れるのではないかと思い挑戦してみました。

 

 

 

 

 

 

 

 

加熱の科学

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サシの入ったちょっと良い肉を食べようとフライパンで焼き、結果火を通し過ぎて固くなり美味しく食べれなかった苦い経験は誰にでもあるはず...。
かといって火を通さないのは食中毒が心配。

火を通しても柔らかく、かつ衛生的に食べる状態にするには、加熱温度と加熱時間について考えなくてはなりません。

料理科学は、シェフ米田肇さんの特集や、漫画「食戟のソーマ」で知って以来興味があった分野でもありますので、今回の鶏ハム製作にあたりいくつか文献やHPを読んで学んできました。

 

 

食肉の構成と熱変性

肉は主にミオシンアクチンとコラーゲンと呼ばれるタンパク質で構成されています。
(具体的にはもっともっと細かい分類がありますが、当記事では不要な為、簡素化した分類にて記載させていただきます。)

個人的にはとても懐かしい名前...。
ミオシン・アクチンなんて筋収縮メカニズムの「Sliding Theory」を学んだ時以来です。

ja.wikipedia.org

閑話休題。

ミオシンアクチンは柔らかいタンパク質であるのに対し、コラーゲンは硬質ゴム様のタンパク質です。
火を通しても柔らかい状態にするにはこれらタンパク質を程よく熱変性させる必要があります。

では、どれくらいの温度で調理すれば良いのでしょうか。

 

この長年の疑問に対し、ジェフ・ポーター著「Cooking for Geeks」にて1つの解が提示されました。

「ヒトは食べた時にミオシンは変性しているが、アクチンは変性していない状態を美味しいと感じることが多い。」

なるほどなるほど...!

あとは具体的温度が分かれば調理しやすくなります。

 

有益な情報を活かすべく、いくつかの文献・HPをもとに加熱温度による食肉の変化を以下の図にまとめてみました。

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参考:Jeff Potter「Cooking for Geeks」、Cooking Maniac「http://cookingmaniac.net/archives/26008473.html」、日本食肉消費総合センター「http://www.jmi.or.jp/recipe/cooking/yaku_main5.html

 

pHや環境温度・湿度、文献・HPによっては多少異なる数値が出てきますが、おおまかにはこのような変化が起こるようです。

上図の通り、ミオシンは50℃、アクチンは65.5°から熱変性を開始します。

ミオシンが変性を開始する50℃では、グニッとした生肉様の食感からブツッと歯切れの良い食感に変化します。
アクチンが変性を開始する65.5℃では収縮するとともに水分(肉汁)を放出します。

加熱温度が上がるほどにこの2つのタンパク質は変性が進み、肉は固くなっていくのです。
フライパンで肉を焼いた時に硬かったのは温度が高すぎたんですね。

となると、「Cooking for Geeks」にて提示された美味しいと感じる状態「ミオシンが変性を始める50℃ギリギリの温度」で攻めたくなりますが、ここでキーとなるのが食中毒菌の死滅温度です。

 

 

美味しさと衛生の天秤

下図は各細菌の殺菌温度と時間の関係性です。

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゛食品衛生の豆知識 -微生物対策編-゛イカリ消毒株式会社

https://www.ikari.co.jp/topics/professional15.html(画像引用 2019-02-10)

細菌数が1/10になる加熱時間をD値と言いますが、このD値まで十分に加熱して殺菌しなければ衛生的に不安が募ります。

ご覧いただくと一目瞭然ですが、ミオシンが変性する50℃ギリギリに温度設定したとしても殺菌しきれないのが現実です。

それどころか、食中毒菌は約30℃~40℃の間で最も活性化し増殖します。
低い温度で加熱時間が短い場合、中心部まで加熱しきれずうじゃうじゃと食中毒菌が増殖する事も考えられます。

ジェフ・ポーター著「Cooking for Geeks」では、先の熱変性の話に加え殺菌の意味も兼ねて58℃から65.5℃を肉の調理に理想的な温度としているようです。

 

 

加熱のまとめ

これら長い長い話を纏めると以下の通りです。

  • ミオシンは変性しているがアクチンは変性していない状態を美味しいと感じやすい。
  • ミオシンは50℃、アクチンは65.5℃で変性開始する。
  • 肉の中心温度を食中毒菌の死滅温度まで上げる事が推奨される。
  • D値になるまで中心温度を保ち続ける事が推奨される。

 

このまとめを参考にする事で、加熱温度と加熱時間を決めることが出来ます。

加熱温度は中心部が58℃(60℃)~65.5℃になる程度。
加熱時間は細菌の死滅温度でD値を超えるまで。

美味しさを求めて低い温度で調理したい方は必然的に調理時間を延ばす必要があります。

私は他サイトやブログの方を参考に、64℃設定で4時間程度の加熱にしてみる事に。
これなら中心温度が58℃〜60℃以上のまま30~60分以上は維持できるようです。お腹痛くなるのは嫌ですからね...。

 

 

 

 

 

実際に作ってみた

加熱の科学について確認したので、さっそく作っていきましょう。

今回準備したのは以下の物です。

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  • 鶏むね肉
  • マジックソルト

たったこれだけ。

他サイトやブログを調べてみると、液体塩麹を使ったり、一晩寝かせたりと凝ったメニューがありますので当記事ではあえて超シンプルに作っていきます。

 

まずは鶏むね肉の皮を取ります。

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包丁を使わなくとも手で簡単に剥ぎとれます。

 

ジップロックの中に鶏むね肉とマジックソルトを入れます。
今回の鶏むね肉約350gに対して大さじ2杯ほど入れました。

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塩の適量は肉の重さの0.8~1%と言われていますが、胡椒やハーブ等の調味料が入った塩なので少々多めに...。

 

空気を抜いてチャックを閉めます。

真空梱包機で真空状態にする記事も多々見かけましたが、ウェルシュ菌の増殖リスクがあるのでそこまでしなくても良いのかもしれません。

 

あとは60℃付近のお湯で満たした器に入れ、ヨーグルトメーカーをスイッチオン。

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先述の通り64℃設定で4時間ほど加熱していきます。

中心温度計をお持ちの方は、1時間おきにでも肉の中心温度を測ってみる事をお勧めします。

 

放置すること4時間。

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ほんのり白っぽく変性しています。

このタイミングでも中心が低温の場合は加熱時間が充分ではない可能性が高いので、再度加熱する事をお勧めします。

 

十分な加熱が完了したら取り出します。

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少々グロテスクな色合いですが美味しそう。
マジックソルトに入ったハーブの香りが鼻腔をくすぐります。

温かい状態では柔らかすぎるうえ、切るときに肉汁が出てきてしまうので冷蔵庫等で冷やします。

 

十分に冷えたら完成です。

塊肉に噛り付きたい気持ちを抑え切り分けてみました。

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中心まで加熱されていますが、やや肉のロゼ色を感じさせる色味ではないでしょうか。
加熱温度と時間はベストだったのかもしれません。

写真では分かりづらいかもしれませんが、非常にしっとりしています。

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肝心の味はジューシーで美味しい(月並み)
味付けはやや塩気が強かったかもしれませんが、おかずの一品として食べるなら丁度良い塩味です。

家内で分けてあっと言う間に食べきってしまいましたが、切り分けてから表面に焼き目をつけて食べるのも、パンに挟めて食べるのも美味しそうです。

やはりヨーグルトメーカーは低温調理機の真似事ができるようです。
放置するだけのガサツ料理に新たなレパートリーが加わったのでした...。

 

 

 

 

 

あとがき

今回はヨーグルトメーカーを使用して鶏ハムを作ってみました。

高価な低温調理器を用いなくても立派な一品になり得るのですから、ヨーグルトメーカーを持っている方は覚えておいても損は無いのではないでしょうか。

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あくまでメーカーの推奨する使い方ではないので、ご留意いただけましたら幸いです。

 

このあとがきでも「加熱の科学」にて記載した内容は、文献やHPによって多少の違いがある事は強調させていただきます。

また、HPによってはコラーゲンの変性による硬化・ゼラチン化が肉の柔らかさに関与する事も多々挙げられていましたが、文献で確認できずエビデンスレベルが弱かったのであえて詳細を記載しませんでした。

 

最後に余談ですが、本記事執筆にあたって調べ物をしていた中で面白いnoteがあったのでご紹介します。

note.mu

60℃で24時間(!)加熱し豚ロースをステーキとして調理される記事です。

図らずとも似たような記事になってしまいましたが、料理の一環として長時間の低温調理を挟むのも料理の幅が広がりそうですよね。

調べるほどに奥深き料理科学の世界。

深すぎる沼に一歩足を踏み入れてしまったような気がします...(笑)

 

 

最後までお読みいただきましてありがとうございました。