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コードバンの色・シミは薄くなるのだろうか。
先日ビンテージ物を揃える靴屋に行った際に、可哀想なAldenのコードバン靴を見つけました。
これはなかなか...。
アッパー広範にかけて雨シミと思われる変色を認めます。
長年の放置によるものでしょう、表面はゴワゴワ。
光沢感は薄れ、コードバンの尊厳はありません。
お店では「コードバン チャッカブーツ」としか書かれていませんでしたが、一眼見た瞬間に分かりました。
これはコードバンの中でも希少価値の高いウイスキーコードバンであると。
ここまでのユーズド品はなかなかお目にかかれません。
リペアや手入れによってコードバンの色をどれほど薄くできるのかと興味があったのですぐさま購入。
黒色に変色してしまったコードバンのシミ抜きに挑戦してみました。
ウイスキーコードバンの審議
希少性の高いコードバンの中でも稀に現れる「色味が薄く、なおかつムラや傷の無い個体」を薄い染料で染めたものには特別なコードバンの名前が与えられます。
その中の1つがウイスキーコードバンです。
(興味のある方はMUUSEO SQUAREさんのウイスキーコードバン靴を覗いてみてください。)
その色味の美しさと希少性から、近年ではプレミアがつき値段は高騰。
某オークションやフリマでは新品で20万クラス、中古でも10万前後で取引されています。
そして今回手にしたコードバン靴がこちら。
失礼な...!(笑)
れっきとしたウイスキーコードバン靴です。
そのウイスキーコードバンか否かの真偽は、インソールの印字や靴内側の型番から読み解く事が可能です。
Alden靴の1例ですが、下の写真をご覧ください。
これはSHIPSの名前が載っているので、SHIPSがAldenに注文した、いわゆる「別注品」である事が分かります。
もちろん別注ではない商品では他会社の名前が記載されていない印字になります。
内側のナンバーからはモデル名(型番)、素材、ラスト(木型)を判別する事が可能です。
(製造時期も読み取る事ができますが、こちらはややこしいのでいつか記事にしようと思います。)
例えば上の写真では、モデル名は「2160」。
この2160を検索してみれば、アバディーンラストと呼ばれる細身の木型にて製作されたストレートチップの靴を表し、素材はバーガンディコードバンを使用している事がすぐに分かります。
某オークション等で「内側のナンバーを教えて。」「靴底の写真載せて。」と質問が来るのはこの為なんですね。
では今回手にした靴はどうでしょうか。
踵の部分が破けたのかライニング補修をしているため、ナンバーは末尾「48」しかわかりません。
インソールは極めて僅かではありますが、「UNITED ALLOWS」が確認出来ます。
UNITED ALLOWS別注のコードバンチャッカブーツ、そして◯◯48というと型番1348しか該当しません。
検索してみればこちらの靴はウイスキーコードバン、木型はバリーラストという事が容易に確認できるのです。
状態確認
補修していく前に全体を確認しておきましょう。
もはや修復不可能なレベルでシミが広がっています。
革表面はガサガサゴワゴワ。
このレベルではアビースティックで表面を慣らす事も難しいでしょう。
カビ臭さも相まって長年放置されていた事が分かります。
この状態からどこまで綺麗になるでしょうか。
実際に修復していく
コードバン脱皮編
コードバンのシミ抜きとしてサドルソープを使用する方法がありますが、この方法では色ムラを抑える程度であって色を薄くする事は難しいように思います。
そんな中でふと思いついたのがコードバンにヤスリをかけるコードバン脱皮です。
以前バーガンディコードバンにて実施した際には顕著な色味の改善を確認しました。
【ビフォー】
【アフター】
今回のチャッカブーツもコードバン脱皮チャレンジ同様の方法にて明度の是正を図ります。
ヤスリ掛けによって古い汚れや革の凹凸を無くし、物理的に革の厚さの変化によって色味も薄くする算段です。
聞こえは良いですが要は荒業ですので、真似をされる方は自己責任にてお願いします。
コードバン脱皮の概要につきましてはこちらの記事も併せてご覧ください。
さっそく修復していきましょう。
まずは靴紐を外しステインリムーバーで汚れを落とします。
今回はカビ臭さもあったので、一般的なリムーバーではなくマイスターシリーズの強烈なリムーバーを使用しました。
あまりにアッパーの凹凸がひどいのでまずは240番のヤスリから。
アッパーを中心に凹凸やシミの目立つ部分を削っていきます。
何度コードバン脱皮をやっていてもこの瞬間は「やってしまった...。」と焦ります(笑)
お次はメラミンスポンジ。
この時点ですでに黒い変色部分は落とせたようです。
色ムラはあれど美しいウイスキーカラーが戻ってきたのではないでしょうか。
次いで400番。
さらに1000番。
おまけに2000番。
色ムラはあれど色味は随分と薄くなったように感じます。
ブラッシングにて削りカスを払ってみました。
実施前の黒く変色した時とは雲泥の差です。
期待がグッと高まります。
シューケア編
コードバン脱皮にて色味が薄くなり、かつての光沢が戻りつつあるウイスキーコードバンですが、依然として革は乾燥してガサガサです。
ここからは通常通りのシューケアにて革質の再生を図ります。
まずデリケートクリーム。
少量をブラシに取り全体に広げ、少々放置し馴染ませた後に布(ネル生地)で拭きます。
淀んだ色から彩度が戻ってきました。
お次は靴クリームの塗布です。
コードバンの中でも色味の薄いウイスキーコードバンではシュプリームクリームのような無色のクリームを塗布するのが推奨されています。
しかして今回こちらの靴は色ムラはむちろん傷が多数あります。
今回は隠蔽効果も欲しいので、色のあるクリームを選択。
実際の靴色よりも薄めの色が最適なので、手前のライトブラウンを塗布していきます。
こちらもデリケートクリーム同様に少量をブラシに取り全体に広げます。
少々放置し革に馴染んだら余分なクリームを拭きとります。
靴クリームの補色効果おそるべし。
遠目には傷は分からないレベルになりました。
色ムラは少々ありますが妥協範囲でしょう。
最後にコバの塗装剥がれにコバインキを塗布すれば完了です。
黒色に変色していたアッパーの面影はなくなりました。
コードバン修復前後比較
修復前後にてどれくらい変化があったのかを見ていきます。
【ビフォー】
【アフター】
【ビフォー】
【アフター】
【ビフォー】
【アフター】
【ビフォー】
【アフター】
当初目的としていた色味の明るさは間違いなく改善されています。
接近してみると色ムラはバレてしまいますが、1mも離れればパッと見では分からないレベルでしょう。
俯瞰から見るとご覧の通りです。
ワックスで鏡面磨きを施せばさらに色ムラを誤魔化せそうな気もしますが、これはこれでアリなのかもしれません。
なんだかベルルッティのパティーヌのような風合いですね(失礼)
しかしてウイスキーコードバンというよりかは、ラベロコードバンとシガーコードバンの間のような色味に近づいた気がします。
あとがき
今回はヤスリがけにてウイスキーコードバンの明度改善・シミ抜きを図りました。
結果としては成功といっても良いのではないでしょうか。
しかしウイスキーコードバンのような元から明るい色では、よりシミが目立ってしまう可能性があるため注意が必要です。
あくまで明度の改善、シミ抜きの方法の1つとして覚えておいて損は無いのかなと思います。
こうやって見てみると色ムラも含めて個人的には結構好みです。
先述の通りベルルッティのパティーヌのような故意的な色ムラに近しい印象を感じるのは私だけでしょうか(笑)
気分転換で時々履いていこうかなと思っております。
今回補修に使用したクリーム等は下にまとめましたのでご参考に頂けましたら幸いです。
最後までお読みいただきましてありがとうございました。